小林弘樹公認会計士・税理士事務所
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基礎知識Knowledge

中小企業のための「品格ある節税」入門

節税という言葉には、どうしてもテクニックの匂いがつきまといます。
しかし私たちは、節税を「小さな裏ワザ」の積み重ねとは考えていません。
法令に忠実で、事業の持続的成長に資する判断を行うこと。数字の整え方に品位が宿り、社会からの信頼が積み上がること。
これが、私たちのめざす「品格ある節税」です。

本記事は、税務の専門家ではない経営者やご担当者の方に向けて、まず押さえておきたい考え方と代表的な方法を、できるだけ平易な言葉でまとめた入門編です。
細かな条件や最新の取扱いは個別相談で確認するとして、ここでは“全体像”だけをつかんでください。

まず知っておきたいこと

法人税の世界では、支出のことを一般に「経費」と呼びますが、正確には「損金」と表現します。
そして、いつ損金にできるかは、支払日ではなく「サービスが提供された」「物が引き渡された」といった事実に基づいて判断します。
ここを外すと、良かれと思ってやった処理が後で指摘されることになりかねません。

また、多くの節税は“税金を減らす”というより“支払うタイミングを整える”性質を持っています。
つまり、今年の負担を軽くできても、将来に回ってくることがある。
だからこそ、資金繰りや投資計画とセットで考えることが大切です。

決算前にできる素朴な工夫

決算期が近づくと、広告や備品の手配を前倒しにしたくなるものです。
ただし、払っただけでは損金になりません。たとえば広告なら掲載が始まっていること、備品なら使える状態になっていることが目安です。
例外的に、短い期間のサービスなどは、支払時点で損金として扱える特例もありますが、毎年同じ扱いを続けるなど“運用の一貫性”が鍵になります。
大切なのは、「早めに払う」ではなく「提供が完了しているか」を確認する姿勢です。

役員報酬は“設計”がすべて

役員の報酬は、毎月同じ金額で支給するなど、税法上の決まりに沿った形で設計すると損金として認められます。
途中で金額を変えることは原則できず、賞与を出す場合は決め方や届け出のタイミングに細かなルールがあります。
税金だけでなく、社会保険や配当とのバランスも含めて、年度のはじめに落ち着いた設計を行うのがいちばん安全です。

少額の備品は、その年の費用に

パソコンや工具など、比較的少額の備品については、中小企業向けに、その年の費用として処理できる特例があります。
上限や対象の考え方にはルールがあるため、年間の購入計画と合わせて整理しておくと、決算で慌てずに済みます。
ポイントは、「何でも一括費用にできる」わけではない、という理解です。

設備投資の優遇は“種類の違い”を理解する

生産性向上につながる設備投資には、いくつかの優遇制度があります。
大きく分けると、①通常より早く費用化できるもの(特別償却や即時償却)、②税額そのものを直接差し引けるもの(税額控除)、③固定資産税を軽くできるもの、の三つです。
どれも似た言葉が並ぶため混同しがちですが、効果の出る場所が違います。
事前に計画の認定が必要な制度もあるので、「導入前に確認」が合言葉です。

“備え”としての共済の考え方

取引先の倒産など万一に備えるための共済制度があります。掛金は会社の費用として扱え、いざというときの資金の手当ても受けられます。
ただし、積み立てた分を解約すると会社の収入として扱われるため、「今年は軽くなるが、将来また課税される」性格も持ちます。
資金繰りの安全網として評価しながら、解約のタイミングは事業計画と合わせて設計する――そんな向き合い方が健全です。

福利厚生・出張・接待は“目的と公平性”で整える

社員旅行や健康診断などの福利厚生は、従業員全体に向けて、常識の範囲で行われていることが前提です。
特定の人だけが得をする形になると、給与とみなされてしまうことがあります。
出張費は仕事に必要な実費であること、接待は中小企業向けの特例があることなど、考え方の軸はシンプルです。
「誰のための支出か」「説明がつくか」をいつも意識しておくと、判断がぶれません。

退職金制度は“誰のために、どの枠組みで”

従業員の退職金を準備する制度として、会社が負担する掛金を費用にできる仕組みがあります。
長く働いてくれた人へ、会社としての約束を形にする制度です。
一方で、経営者個人の老後資金を積み立てる制度もありますが、これは会社の費用ではなく、個人の所得控除として扱われます。
名前が似ているため混同しやすいのですが、「会社の制度」と「個人の制度」を分けて考えることが大切です。
役員退職金については、功績や在任年数に照らした“適正額”であることが前提になります。

ここまでのまとめ

節税の要は、テクニックではなく設計です。
支出の“時期”と“中身”を正しくとらえ、役員報酬は年初に設計し、少額備品や設備投資の制度は混ぜずに選ぶ。共済は備えとして活用し、福利厚生は公平に。退職金は会社の制度と個人の制度を分けて考える。
どれも派手さはありませんが、こうした基本の積み重ねが、のちの税務調査でも、社内外の信頼という形でも、確かな成果をもたらします。

納税は、社会と未来への参加のかたちです。
だからこそ、私たちは「品格ある節税」を掲げています。
短期の数字合わせではなく、理念・人材・技術への投資を、税務の言葉で支える。制度や要件は変わりますが、変わらないのは、誠実に、長期で、事業の力を育てる姿勢です。
貴社の三年後、五年後から逆算した最適解を、ともに設計しましょう。

本稿は入門的な解説です。
具体的な適用可否や最新の取扱いは、個別の状況をうかがったうえで確認いたします。
遠慮なくご相談ください。

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